猫は勘定に入ります2005年08月12日 11時10分50秒

 題名に惹かれて読み始めた「犬は勘定に入れません」やうやく読み終はる。
 長編なんだけど、それにしてもかかりましたな〜。あんまり長い期間読んでゐると興味を持続するのが大変です。まあ、面白くはあつたので、最後まで読めました。作者はコニー ウィリス。SFで賞など取つてゐる有名な人‥‥‥。変な紹介。
 以前に「航路」と言ふもつと長い作品を読んでゐたので、油断しましたな。「航路」は臨死体験実験の話で、テレビ「ER」を思はせる細かな展開で、一気に読めましたから。(ちなみに「ER」を最初から最後までちやんと見たことない!)何故か、臨死状態に陥ると「タイタニック」へゆく!?と言ふアイデアで、押し切る凄い小説です。主人公がキャメロンの「タイタニック」に文句をつけるシーンがあつて、あれは作者の気持ちですかね?
 「犬は‥‥‥」はタイムトラベルものです。正式には「犬は感情に入れません あるいは、消えたヴィクトリア朝花瓶の謎」(大森望/訳)です。この副題で苦労します(実感)。"To Say Nothing Of The Dog or How We Found The Bishop's Bird Stump At Last" 訳者あとがきにありますが、直訳すると「犬は勘定に入れません あるいは、僕らがとうとう主教の鳥株を見つけたいきさつ」です。確かにこの「鳥株」と言ふのが??で困りましたね〜。最初の頃はなんなのこれは?と気になつてね〜。で、訳者が気を使つてくれたのはわかりますが、「消えたヴィクトリア朝花瓶の謎」と言ふのもいかがなものかと、作中で本格ミステリのネタが反復されるので、それ風のタイトルにしたらしいですが、「僕らがとうとう‥‥‥見つけたいきさつ」の方が、ぼく(個人!)にはよかつたなあ〜。一長一短ですな。「僕らがとうとう鳥株と呼ばれる花瓶をみつけたいきさつ」にしていただければ、どうせ長いんだし‥‥‥。
 この小説が最初から面白く読める人は読書家ですね。文学通の人はかなり楽しめるのではないかと思ひます。ぼくは困りましたよ。引用は多いし、それも英国特有の構へた表現だし、そして、どんどんこれはミステリー仕立てと言ふより本格ミステリーのパロディ(オマージュ)と言ふのが正しいのか‥‥‥。と思へてくるわけです。アガサクリスティー、ドロシーセイヤーズなんて名前が飛び出します。ドロシーセイヤーズって知つてます?日本では圧倒的にアガサクリスティーが有名ですが、あちらではミステリーの女王と言へば、この二人が同時にあがるさうです。ぼくは「箱の中の書類」と言ふのを読んだことがあります。たまたま運がよかつたのか、本格色の薄いアクション篇でした。不思議なのは主人公が全然活躍しない小説でしたね。シリーズの中の主人公お休み篇だつたんですかね。
 と、まあ、そんなわけで、ミステリー好きにもたまらない作品となつております‥‥‥?
 なので、ぼくは困りました。面白んだけど‥‥‥。一人称で、その主人公が、タイムトラベルの症候群にかかつてゐて(時差ボケみたいなもの)いろいろな認識が曖昧だと言ふ状況から始まつてゐるので、ややこしいと言ふか真実が判らず混乱します。(混乱するけど、面白い)だんだん整理されてきても、どこまで、本当?なんて思ひながら、読み進むうちに引用の多用で、退屈になりつつ登場人物の面白さで、先が気になりつつ、ミステリーの考察が気になり始め‥‥‥。(ぼくが以前このブログで一人称の主人公が犯人なのは反則だよな〜なんて、書いてたんですが、主人公が犯人なのはあるみたいです。「月長石」と言ふ奴。タイトルは聞いたことあります。一人称かどうかはわかりませんが‥‥‥。)
 「たいてい執事が犯人なのよ」なんてセリフが連発。ミステリファンは笑ふんだろな。考えてみるとタイムトラベルものは、あそこにあつたものが、どうなつてこうなつてと、パズルワーク的になりやすいですね。寺山修司の様に過去へ戻つて母親を殺したら自分はどうなるんだろうなんて、怖いものもありますが、密室殺人なんて簡単ですな。と、話題が殺伐としてしまつたので、元に戻ると、訳者さんの「謎」と言ふキーワードが、ある意味正しいし、ぼくが本格ミステリ好きなら「おおこの副題は!」とそんな気持ちで読めたかも知れないし、でも残念ながら、ハードボイルド派なのでピンと来ないまま読み始めてしまつたし、それが、ある種の仇となり「くどさ」や「わざわざな展開」が気になつたり、面白いんだけどさ〜。
 ところで「犬‥‥‥」と言ふのは「ボートの三人男」と言ふヴィクトリア朝ユーモア小説の最高峰の『副題』なんだと!さうですか‥‥‥。コニーウィリスはその作品をハインラインの「大宇宙の少年」と言ふ作品で知つたさうな‥‥‥。ぼくは、コニーさんの小説で知ることになつたわけですが、ヴィクトリア朝ユーモア小説か〜‥‥‥。
 でもね、登場「犬」シリルと、「猫」プリンセスアージュマンドがよかつたな。特に猫に関するラストは、なるほどと言ふか、よかつたな。このまま謎解きで終はつたら、長々と読んだのが空しくなるものね〜。

P.S.
 ところで(ところでが多いな)「月長石」の主人公が犯人とは、完全にネタバレぢやん!本格ミステリの犯人を言ふのはルール違反でないの?しかし、造詣深いコニーさんだらうからな〜。訳者あとがきによると、ファンは大丈夫なんださうです
 大丈夫ってどういふことなんだらう?まあ、古典的作品だから、みんな知つてると言ふ前提なのかな〜。角川映画「悪魔の手毬歌」の時、岸恵子が公開前に「私が犯人です」と言つてしまつたことは有名だし‥‥‥。(関係ない?)