小僧の神様2005年11月04日 00時52分01秒

昨年の今頃か?自分撮影に凝ってゐた。

 この間、ベテランのアニメーターであり、演出家であり、なによりもアニメ界のご意見番である。TO様と話をした。「今のシナリオライターの方たちは子供の頃『国語』は出来たのかな〜?出来てないんぢゃないの?」
 思わず笑ってしまった。とはいへ、シナリオも書く演出家のぼくとしては、ヒヤリともしたが。「やはり4とか5はとってたのでないと無理ではないの?」と続く。「だって、アニメーターだって美術(図画工作)で、4とか5をとってないとなれないでしょう」と一刀両断だ。ちなみに5段階評価です。
 ぼくはといふと、国語は怪しかった。作文を誉められたことは無い!なので、脚本は演出家としてカバーする前提で書いてゐる。(言い訳に聞こえるよね)とはいへ、スタッフに読んで理解してもらわねばならないのは同じことだ。今時、出来上がったらばっちりだから!なんて言っても納得してくれる人はゐない。だから、そこそこ苦労する。そして、どうなるかといふと、あ〜だこうだと口で説明することになる。『ここはこうなるから、これはかういふ意味だから』しまいには『う〜ん。盛り上がる筈だから‥‥‥。』と、はなはだ心もとない。書いてるんだか、言い繕ってゐるのだか‥‥‥。
 だからといふわけではない。何故だかわからない。志賀直哉の短編集を読んだ。
 志賀直哉が日本文学界でどう評価されてゐるのか知らない。
 ぼくは『美しい』と思った。文章とはこれだよな〜。(『な〜』なんて文章ではないな)
 たまにはこんな文章を読まないと、言語そのものが崩壊するのではないかと改めて思った。
 『小僧の神様(他十篇)』岩波文庫。
 「小僧の神様」(大正8年12月)
 「正義派」(明治45年1月)
 「赤西蠣太」(大正6年8月)
 「母の死と新しい母」(明治45年1月)
 「清兵衛と瓢箪」(大正元年12月)
 「范の犯罪」(大正2年9月)
 「城の崎(きのさき)にて」(大正6年4月)
 「好人物の夫婦」(大正6年7月)
 「流行感冒」(大正8年3月)
 「たき火」(大正9年3月)
 「真鶴」(大正9年8月)
 『美しい』と言ったが、これは現代語訳である。語訳はおおげさだ‥‥‥現代語表記とするべきだ。それでも、美しさに変わりはない。
 最近テレビで「昭和の匂いがするよぉ」なんて、ややバカにした(若干のノスタルジーもあるが)セリフを聞くことがあるけれど‥‥‥。その前には大正や明治があったのだ。
 当たり前だけど。

 それから「最近の若いもんは」と言ふ文句、嘆きに対し、いつの時代も年寄りはさう言った。いつだって若者は同じだ。歴史は繰り返す。などと『変わらないこと』が強調されるが、ぼくはそうは思わない。

 昔(何年前とは言わないが)嘆きの対象となった若者たちは、年齢を重ねても、反省することはなく、つまり違う意味で変化すること無く、社会的地位を得てなお薄弱なまま振る舞い、その結果世の中を加速度的に悪くしてゐる。

 断言する。ぼくがそうだから自信がある。
 幸か不幸か、ぼくは直接的に世の中を悪くするほど地位がないが、きっとどこかで、質を下げてゐると思う。
 子供のまま大人になってしまった連中が、子供らしさを失わないことは美徳だと、筋を変えてしまった。確かにその一面はあるが、美化し過ぎだ。傍若無人なまま大人になることとは意味が違う。
 やっとそれに気がついた。30年ぐらいかかってほんの少しだけ大人になったのかも知れない。でなければ志賀直哉の本など手にとることもなかっただろう。
 いまからでも遅くないと思おう。国語の勉強だ。

 作品はどれも読みやすく面白い。古い感じなどしない。もちろん時代的に風景の差はある。(それも良い)でも、作風などむしろ斬新な作品もある。小僧の神様など、文庫で13〜4ページの作品だが、終わり近く突然『わたし(作者)』が、語りだす。この後はこれこれ、こんな風に話を進めることも考えたが、ここで終わることにすると。
 おりゃ〜。凄い。全体に自分の周りのことを語る作品以外は、投げ出し方が小気味いい。短編ならではなのか。
 それに登場人物の感情など、今と同じで何ら変わることも無い。当たり前と言えば当たり前だが、たった今『変わらない』は間違ってゐると声高に断言したのはなんなの?となるので、補足する。
 どうやら吸っていた空気が違うようなのだ。景色が違うと書いたが、それとも違う。空気とは社会の空気だ。生活の欲求の差とも言える。
 それは、小説の中身の問題ではないのでは?文章に関係なく当時と今の世情が違うだけぢやない。と言われますかな?
 その通りです。だから、志賀直哉を読むことには二つの意味が合ったのです。
 文章の美しさを知る。この空気のよさを知る。

 さて、どうしようと考えるのはこれからです。

P.S.
 そしてTO様は突然ぼくに「アニメーター志望だった?」と聞いた。「え!?」と驚きつつ「初めから演出希望でしたよ」と答えると「星描かない?」って、会話がつながっとらんやんけ‥‥‥。
 TO様は締め切りのカラーイラストを描いていて、その背景の星をやれと。
 まあ、筆でピッピッとはじくだけなので、ぼくにも出来るかなとやりました。どうせやるなら、上手に描くぞと気張ってはみたけれど、自己評価60点。
 それでも、TO様は「いいじゃない」と笑ってゐた。厳しいことも言ふが、基本的にはおおらかな人なのだ。

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