訃報2007年06月24日 08時10分53秒


 今朝、脚本家の桶谷顕(おけやあきら)が亡くなりました。

『ボクがもらった幸せ』から、ひとつ紹介します。


『キャッチボール』

相手の胸に向かってポーンとボールを投げる
 バシッと皮のグローブを鳴らして
 ボールは受け止められる
 ただ、それだけの遊び

けれど
 なかなか胸には届かない
 きちんと真っ直ぐは届かない

格好をつけて力めば
 ボールは友の遥か頭上を越え
 彼が追いかけてゆくまで転々とする
「悪い悪い」と声をかけ
 今度は真っ直ぐなボールを投げるんだと
 心にきざむ

ワンバウンドの返球
 軽くさばければ格好いいが
 ボールは逸れ
 草むらに転々とする
 今度はぼくが走る
「下手くそ」と呟きながら
 ボールを追いかける

相手の胸に向かってポーンと投げる
 バシッと皮のグローブを鳴らして
 ボールは受け止められる
 いつしか
 グローブには汗の匂いが染み込み
 彼のモノか
 ボクのモノかわからない汗の匂いが……

ただ、それだけの遊び
 ただ、それだけが嬉しい遊び


 彼の脚本家デビューの頃は知らない。
 ぼくは、15年ぐらいの付き合ひだらうか。
 脚本家と演出家。それなりに深く付き合つたと思ふ。
 だけど、彼が野球好き!ジャイアンツファンだと知つたのは、つい最近だ。
 ぼくが、野球に興味がないので、さういふ話題にならなかつただけなのかも知れないが、それにしても驚いた。

 彼は、時として秘めたる情念を寡黙に語りかけてくる。
 そんな脚本を書く人は他にゐない。
 それに気づかないと、ボールを捕り損なうことになる。
 捕れなかつたら怒られる。いや、彼は決して声を荒げないが、怒つてるに決まつてる。
 彼は、もちろん暴投もする。
 暴投した時は、こちらよりも先に「これは暴投だよね」と言ふ。
 でも、ぼくは知つてゐる、彼は暴投と知りつつも投げたかつたのだ。
 暴投を投げてからたどり着くストライクもある。
 ぼくのヘナチョコ球を、彼は受け止めやうとする。
 エラーだつてする。
 でも、背中でワンハンドキャッチをするやうなアクロバティックなこともやる。奇をてらつてやるのではない。でも、面白がつてゐるのは事実だ。
 受け取り損なつたときは黙つてゐるが、悔しがつてゐるのがわかる。
 もしかしたら「下手くそ」と呟いてゐたのかも知れない。
 彼とはたくさんキャッチボールをしたと思う。
 そして、彼とのキャッチボールはとても楽しかつた。
 だけど、その楽しさが怖くて、距離を置かねばと思つたこともある。

 どうかな……?
 彼のモノか、ぼくのモノか判らない匂いは、染み込んでゐるかな……。

 自分ではなんとも計りがたいけれど、でも、ありがとう。おけやさん。

コメント

_ (・∀・) ― 2007年06月24日 20時31分45秒

御遺族様に対しお悔やみを申し上げます。

キャラを現実に引き戻す展開が、いずれも違和感多くて痛かった。
ぶぶチャチャは超好きでした。

_ さかえ ― 2007年06月24日 23時14分43秒

最初にお名前を知ったのはVガンダムでしたが、忘れられない作品は監督と組んだ「聖ルミナス女学院」でした。
凡百の萌え系ハーレム作品とたかをくくっていたのですが、偶然見たときの鮮烈な印象は忘れられません。
思春期の不安定な少年少女の心情が、自己の存在の不確かさ(=消失)に繋がるというメタファ。彼らに対する視線の暖かさが、「ぶぶチャチャ」にも通じる「愛」を感じさせた名作でした。
心よりご冥福をお祈り申し上げます。

_ はばら ― 2007年06月25日 18時02分00秒

あの、ちょっと照れた表情の笑顔とハスキーな声が忘れられません。

たまらなくなって、また「ボクがもらった幸せ」を読んでしまいます。

_ 鈍行彗星 ― 2007年06月26日 00時12分56秒

いつかどこかでお会いして、お話をしたいと思っていた方でした
名前を意識して見たのはつい最近でしたが、チンプイ、08小隊、ワタルと、手がけた作品には私がよく見ていた番組ばかりが並んでいました
そして、コメットさんは今日の私を形作るに欠かせなかったものとなりました

皮肉にも、私が「ボクがもらった幸せ」を読んだのは24日の夕方のことで、訃報を知ったのは読み終わった後のことでした
私も先生のような心のこもった作品を書ける人間になりたいと決意した直後であっただけに、ただただ残念で、涙を止めることができません
ご冥福をお祈りいたします

_ やまぐちりょうた ― 2007年06月26日 00時59分14秒

Gガンダムでは、兄貴のようだった桶谷さん。
あれ以降、現場でお会いすることはなかったのですが、
脚本に対するスタンスとか、学ぶところは多かったです。

ご冥福をお祈りします。

_ 石神井公園のワニ ― 2007年06月26日 18時49分42秒

同じ作品に携われたというコトが有り難かったです。
まだまだお仕事でご一緒出来るかな?と思いましたが
叶わなくなってしまいました。
とても残念でなりませんです。

ご冥福をお祈りします。

_ こー太 ― 2007年06月28日 17時31分16秒

Gガンダム以降、何かとご相談させていただく事が多かったのですが、
ここ数年、なかなかお会いする機会がもてないままの訃報となってしまいました。

まだまだ一緒に仕事がしたかったのに、とても残念です。

_ ちゃい25% ― 2007年06月29日 07時42分18秒

高い空の上の星をねだる子の様な、私の求めているもの・愛して止まないものを、
いつも、その手の中で広げて見せてくれる、魔法使い。
お会いするという夢は叶わなかったけれど、同じ時に出逢えた事が
なによりの宝物です。どうもありがとうございました。

おけやさん、これからは風の、光の、一瞬一瞬、ひとつひとつの喜びの中で
いつでもお会い出来ますね。

ご冥福をお祈りいたします。

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