黄色い雨2006年02月20日 23時45分11秒

『黄色い雨』フリオ リャマーレス(La Lluvia Amarilla by Julio Llamazares)木村栄一(栄は𤇾に木)[訳]ソニーマガジンズ。
 翻訳もの。スペイン語もの。なので、少々不安もあつたが、これは大変読みやすいものだつた。全編とおして、とある死んでゐるのかも知れない(いや死んでゐるのか‥‥‥、ほとんど冒頭でわかるので、ネタバレではないが、何故か死んでゐると断言したくない何かがある)男性の語りなので、入りやすかつたのだ。数日前に「とある村が死んでゆく話」と書いたものである。
 とにかくまあ、村でも『私』でも、死んでゆく話なのだが、重たいとか暗い印象は無い。『黄色い雨』といふのがまた死のイメージのやうなんだが、映像的で、明るい!?
 人々が去つてゆく村で、一人の男と一匹の雌犬が最後まで残ることになるのだが、先に死ぬのはその雌犬の方だ。
 男は雌犬が死んだことを知つてゐるわけだが、すでに記憶と現実の境界線がかなりあいまいになつてゐて(もしかしたら自分もすでに死んでゐて、記憶のどこからどこまでが生前のことなのかも曖昧だ)共に暮らし続けてゐる雌犬の影が、あるとき黄色く変はつてゐることに気づき「ああ」とあらためて納得する。

 まさしく脳裏に絵が浮かぶが、描かない。あまりにもいい絵なので描けない。

 ところで、この本、解説が20ページもある。訳者の木村さんが書いてる。これが、面白い。
 この本はスペインの小説だが、ラテンアメリカの翻訳で有名なそうだ。現在は神戸市外語大学学長と書いてある。
 先生だ。おそらく、話し好きな人だらう。先生といふのは話し好きだ。と断定してしまう。今、仕事でとある大学の先生に協力願つたりしてゐて、話を聞くことがあるのだが、ひたむきな姿勢に感心する。教えること、話すことが、染み付いてゐる。いや、楽しくてたまらないのだらう。
 スペインの小さな町の名も無き小さな書店のオヤジとの会話が楽しくてたまらない。面白い本を紹介してよ。といふ木村さんの問ひに、楽しく答える店主。しつかりラストシーンまで説明してゐるのだが、木村さんも全然気にしない。する必要がないのだ。ストーリーそのものよりも、作品の醸し出す味はひが大事なのだから。
 『七悪魔の旅』で挫けさうになつてゐるスペイン語、ラテン系文学の世界だが(昔『百年の孤独』で挫けた経験あり。名前が大変なのだ。今回も『アイニェーリェ村』と下を噛みさうな名の村なんで難儀した。別に音読する訳ではないのだが)また読んでみやうかなと思つた。