監督を怒鳴らせた「ひやかし」2006年03月24日 22時52分34秒

 「ひやかし」とは「ウインドウショッピング」ともいへるが、この場合は吉原の店先で格子越しに遊女を見て回る本来(!?)の意味です。
 場所はしかし、吉原でなく三船プロ。最近娘さんがよくテレビにでてゐるやうだが、その亡くなつたお父さん。世界の三船敏郎さんの独立プロダクション。成城学園にありました。(今もあるのだらうか?知らない)
 三船プロの凄いところは独立プロであるにも関はらず。オープンセット(江戸の町)もあつた。ぼくの登録してゐた事務所でも、三船プロにいく人はだいたい決まつてゐて、ほとんど専属のやうな感じだつた。人数の都合で時々ぼくも呼ばれた。三船プロの雰囲気は独特で、今言つたやうにエキストラも専属に近いメンツがそろつてゐて、プロ集団的な感じがした。遊び気分のエキストラは大変だ。着物ももちろん自分で着るし、かつらをつけるために『はぶたい』も自分でつけた。はぶたいといふのは、時代劇の髪型(ちょんまげ)を思ひ浮かべてもらえればわかると思ひますが、頭の剃つた部分を表現するためのものです。おでこからビタッと頭にすっぽりあてがいます。そして、結髪さんのところへ行つてサイズのあふカツラをもらい。もみあげ部を接着剤で止めます(これも自分で)もちろん、やり方がわからない場合は、衣装さん、結髪さんがちゃんと面倒見てくれますが、そこはそこぼくはプロのエキストラでしたから、初三船プロのときから見やう見まねでやりました。
 楽しかつた!
 ただ、得てしてかういふときは「いい気」になつてしまう。一丁前になつた気分で調子に乗つてしまうわけですね。

 こんな段取りがありました。男A「ひやかし」が、女郎屋の格子前でひやかししてる。飽きて(金が無いので上には上がらない。これをひやかしといふ)離れる。女郎屋に誰かを探しにきた役付の人(つまりストーリーのための人)が、男Aの離れたその隙間に入らうとすると、脇からきた男Bに先に入られてしまう。悔しがる(困る)ストーリーの人。男ABはエキストラである。
 ぼくは男A。
 よ〜い!ハイッ!
 ぼく、中の女の子とエヘラエヘラ話す。
 カット!
 撮影が中断される。段取りがよくないらしい。
 ぼくがいけないのだが、いまいち解つてない。
 「お前、ちょっとゐて離れるのね」と助監督が確認にくる。「はい」と返事するぼく。
 よ〜い!ハイッ!
 ぼく、中の女の子とエヘラエヘラ話す。
 カット!
 と、また撮影が中断される。
 「すぐどかなきゃだめだよ」と助監督また言ひにくる。「はい」とぼく。
 まだ、解つてない。実は最初に説明された『飽きてどく』にこだわつてゐたのだ。でも、やらなければいけなかつたことはフイルムが回り始めると同時にどくことだつた!(いくら低予算でフイルム節約とは言へ、段取りはしょり過ぎでないかと未だに思ふ。といふぐらい速攻でどかなければならなかつたのだ)
 でも、ぼくはあくまでも自然の演技にこだわつて、女の子とエヘラエヘラした後にどかうとする。
 つまり、どかないつもりはないのだが、その前にカット!と中断されてしまうのだ。三船プロの「勢い撮影」ついていけてない。
 3度目だつた。
監督「カットォ!助監督はなにをやってるんだ!」
 と、助監督が怒られた。ぼくのせいで。凄い声だつた。
 ぼくは外されて先輩が代はりにやつた。先輩が素晴らしい段取りで見事にこなすのを見て、凄いなと思ふと同時に、やはり不自然だと思つた。でも男Aの動きを気にする視聴者はゐない。
 ひやかしを外されたぼくはその後、納屋へ逃げ込む男などやりつつ、その日の仕事を終へた。エキストラ仲間から「お前なんであんときよけなかったの?」と不思議さうに言はれた。なんと答えたかは覚えてゐない。とにかく恥づかしかつた。