思ひ出した人2006年04月29日 21時53分49秒

 何故突然こんなことを思ひ出したのかのかは不明だが、今朝、歩きながらふと脳裏にそのときの光景が浮かんだ。
 これもエキストラをやつてゐた頃、知り合つた人の話だ。年齢が離れてゐたので、さほど親しくはなれなかつたのだが、理由はそれだけでもないかも知れぬ。どの言葉を使へば一番いいのか、どう説明すれば正確なのか、少々悩む。オカマやゲイはあきらかにそぐはない感じがする。ホモ?性同一障害?障害と言ふことには抵抗がある。ただ、彼は少なからず悩んでゐたかも知れない。
 昨今のやうにオカマやゲイが人々に認知されるずつと以前の話だ。(はたして今現在どれほど認知されてゐるかどうかも不明だが。おすピーやKABAちゃん。の影響は大きい)彼は、見た目も言葉遣ひも普通だつた。ただ、すごく優しいしゃべり方をする人だつた。そして、いつも編み物をしてゐた。あるとき、顔なじみのおばさんが「skmさんはいいねえ。うまいねえ編み物」といふやうな類いのことを言つた。(正確には覚えてゐない)すると、彼は珍しくきつい感じで「よくなんかない!」と言つた。おばさんは少々つまつたが「好きなんでしょ?」と続けると「好きじゃない。こんなことやりたくない」と彼は言つたのだ。真意はわからない。その編み物の行く先がないこと(あるいは渡す相手はゐるのだが、少々ギクシャクしてゐたのか)にいらだちを感じてゐたのかも知れない。もちろん彼の私生活のことは知らない。そもそも女性に声をかけられたことが気に入らなかつただけなのかも知れない。
 少なからずヒステリックなところはあつたやうだが、ぼくが見たのはそのときだけだ。
 あるとき、彼と二人で電車に乗つたことがあつた。その電車がまたえらい混みやうで、いささか参つた。離れて立つわけにもいかず。かといつて接触しすぎるのもいかがなものか?ぼくはとりあえず異性に興味ある少年だつた。そして、ひとつ席が空いた。ぼくは彼にゆずらうとしたが、彼はかたくなに拒み他に座る人もなくぼくが座つた。そして、見てしまつたのだ。彼の手がぼくと反対側に立つてゐた少年の股間にあつたのを。その手はピシッとまるで「気をつけ」のときの手のやうに平に緊張しぴたりとして動かなかつた。ぼくも凝視するわけにもいかず、思はず見てしまつたぐらいなのだが、断じてその手は妙な動きをしなかつた。つまりそれ以上のことをしてゐるやうには見えなかつた。ぴたりとその場所から動かずジ〜〜〜ッとしてゐたのだ。
 ぼくは彼の顔を見た。どこをどう見てよいかわからなかつたのだ。
 彼の目は真剣だつた。おそらくぼくのことは目に入つてゐなかつたらう。必死で、直接は見てゐないけれども隣を意識した目で、思ひ詰めたとにかく精一杯な表情で、電車がどんなに揺れてもその手は同じ位置にゐ続けたのだ。その少年はなんとなく不思議な表情もしてゐた感じもする。「?」だつたのだと思ふ。繰り返すがよからぬ動きもしてないし。別に男同士にしろなんにしろ痴漢を擁護するつもりはないが、表現に困る体験だつた。
 ところで、ぼくも、有名な銀座文化といふところで、男性にももを触られたことがある。最初は「????」なものである。そしてはたと気づくのだ。映画館なら「ああこれか!」と理解しすぐに席をたつて離れればいい。でも、満員電車ではさうもいかぬ。