職質2006年07月06日 22時22分45秒

 久しぶりにエキストラの頃の話。
 最近ではどうだらう?
 その頃(30年ちょっと前)は、都内でロケをしてゐても、見物人は集まつても、大した人数ではなく、横目でちらりと見ながら通り過ぎてゆく人がほとんどであつた。『太陽にほえろ』などの人気番組でも、同様で、新宿三丁目あたりの公園(つまり人がある程度溜まつても大丈夫な場所)で撮影したときに、いくらかギャラリーが出来たと記憶する。
 スタッフが人並み整理をする事などなかつたのではないかと思ふ。
 せいぜい本番のとき「少し静かにしてね」と声をかけたぐらいだらうか?
 この公園でのエピソードとしては、竜雷太氏(ゴリさん)が、小野寺昭氏(殿下)を呼び止めるシーンで『あきら!』と(あきらかにわざと)呼び間違へるといふNGを出したことだらうか。まあ、つまりファンサービスなんだが‥‥‥。
 でも、ぼくらエキストラ仲間は冷ややかな目で見てゐたものだ。フイルム代だつてただではなからうに‥‥‥。と、そんなことでは豪快な作品は出来ない。

 と、やや話がそれた。
 ロケの見物人の話をもう少しする。
 横浜の駅の構内でロケをしたことがあつた。作品は『蔵王絶唱』といふ映画だつたと思ふが、いささか自信がない。たしか「蔵王絶唱、横浜集合。蔵王が横浜」とそんな事を思つた記憶があるのでさうだと思ふ。このときが大変だつた。駅の構内といふこともあつたのだらうか、見物人がもの凄く、混乱状態になつた。このとき東京とは違ふなと思つた。横浜では映画の撮影がイベントになりうるのだと感じた。(横浜は田舎なんだと思つた。『ごめんなさい!』)

 とまあ、そんなことを思ひ出しつつその帰りのこと。
 あれは伊勢佐木町の駅だつたか。
 ぼくらの仕事のギャラの受取方法は二通りあつた。まあつまり後払ひと、当日払ひ(取つ払ひ)だ。後払ひは後払ひで、金額がたまるので、それはそれでうれしいものだが、即現金の取つ払ひは宵越しの銭をもたない人々には大変重宝なものだ。
 この日は、取つ払ひだつた。
 ぼくの所属してゐた事務所では、ある程度キャリアのある人間がその日の現場ごとに『責任者』とされ、メンバーの管理を任された。(そこそこ信用のあつたぼくは大してキャリアもないのに責任者になつたことがある)この時は、先輩が責任者をやつてゐたのだが、この水戸出身の先輩、かう言つてはなんだが、人相が悪い。見るからに怪しいんである。さらにいふと犯罪者顔(申し訳ない)だ。もちろん確認ではありません。結構乱暴な性格でしたが、間違ひなく善人です。
 その先輩が駅のホームで封筒から現金を出して、取つ払ひを始めたわけです。このときは7〜8人だつたかな。ぐるりと囲んで、金もらふ。
 繰り返しますが駅のホームです。
 人相悪いッス。
 ぼくは、ほんの少し離れた場所で、支払ひが終はるのを待ちます。
 と、変なオッサンが「あれ何やってんの?」と声をかけて来ました。
 面倒くさいので「別になんでもないですよ」と答えるぼく。
 でも、そのオッサン「教えろよ?」「何だよ?」「誰?」「何?」「知り合いだろ?」「何やってんの?」としつこく聞いてくる。
 鬱陶(うっとう)しいなあと思ふぼく「気にしなくていいですよ」「なんでしょね」「なんでもいいじゃないですか」「だからなんでもいいだろ」と、少々いらつく。
 と、突然オッサン警察手帳出して「なんだ答えろ!」とぼくにグイと見せつけた。
 ぼくは「え!?」とびつくり『なんだよ最初からさう言へよ』と思ひつつ「ああ、あれは」と説明せやうとすると、オッサンいや私服はぼくを押しのけ、警察手帳をつきだしながら金銭取引の現場へ突進。
 先輩とみんなもびつくり(先輩以外はどちらかといふと迷惑顔。そりゃさうだ。文句言はれる筋合ひはない)
 で、先輩は焦りながらも、事情を説明。私服も、勢いづいた割りには、何でもなくてがつかりしたか(だから言つたでねえの)「こんなところで、現金むき出しで、こんなことしてたら危ないよ」ぐらいな説教して去つた。
 ぼくは、先輩の仕事中にこんなオッサンに邪魔させたことをえらく恥じた。
 にしても、もうちよつとやり方があんでねえの?といまだに思ふ。
 警察手帳を出した時の「どうだ!」みたいな態度が思ひ起こされる。
 仕事上、最初から身分を明かす訳にはいかないところもあるのだらうが、だつたらもう少し勘を働かせて怪しいか怪しくないか判断しろよプロなんだからと思ふ。
 あ‥‥‥‥あの先輩。怪しく思はれても仕方ないか‥‥‥。
 確か4つぐらい年上のUさん。どうしてるかなぁ〜。