はーどぼいるどだど32007年05月23日 22時52分21秒

 といふことで、創元推理文庫『失われた夜の夜』ジャン クロード イゾ、高橋啓[訳、あとがき]
 う‥‥、しまつた。発表年を調べとくの忘れた。
 翻訳は今年だが、この作者は残念にも他界してしまつたさうだ。
 『失われた夜の夜』は、マルセイユ3部作の一作目だといふことだから、数年前なんだと思ふ。
 さうなんだ。舞台はマルセイユ。マルセイユといへば『フレンチコネクション2』だ。港湾都市として活気がありつつ混沌とした雰囲気がよかつた。
 まあ、何かと映画の話になつてしまうが、ロベールゲディギャンといふ、マルセイユを舞台にした映画しか撮らない映画監督がゐて、例えば『幼なじみ』といふ映画を見ると、黒人差別や友情が描かれてゐて興味深い。
 フランスの排他政策に関していふと、イスラム教徒の女子学生のスカーフ(ベール?)禁止処置が記憶に新しい。もつと近い話題だと相撲=下品発言などあるが、まあ、排他的思考に関しては日本も負けてゐないので、批判出来る立場でもない。
 パリ郊外の警察を舞台にした『ジュリーレスコー』は、最近お気に入りのテレビドラマだが、この警察署には黒人男性もアラブ系女性もゐて、活躍してる。
 さて、もうそろそろケリをつけないと全然ハードボイルドになれない。
 けじめが必要なのだ。ハードボイルドにはね。
 『失われた夜の夜』でのマルセイユはかなり混沌としてゐて(行つたことがないから判らないが、かなり真実らしい)イタリア系移民、アラブ系移民などが、錯綜する湿り気と重みのある小説だ。現代は『Total Khe´ops』で、劇中にそんな表現が出てくる。訳者の高橋啓さんは「どこもかしこも泥まみれ」と訳を入れてゐるが、原書には『全面的乱痴気騒ぎ、どうにも抜け出せない腐臭ふんぷんの泥沼』と説明してあるそうだ。どちらにしろタイトルにはしにくい。
 この訳書タイトルはいいと思ふ。劇中の詩から引用してゐると解説にある。
 この主人公は読書家なんだ。イタリア系で、元不良(犯罪者?)で、3人組だつたんだ。だけど、こいつは刑事になり後の2人は、犯罪者のまま、そして、殺されてしまうんだ。この刑事は2人を犯罪者の道から、抜け出させることが出来なかつたことを悔やむが、それが、絶対に不可能だつたことも判つてゐる。刑事にはなつたが、イタリア系の刑事は、どこかはみ出してしまうのだ。
 殺されてしまつた元『友』の復讐をするといふよりも、どうしようも無くなつてゐた。絆を確認したくて、執念を燃やすのだ。
 ハードボイルドといへば『非情』なんて言葉がついて回るが、この主人公は非情ではない。多分に感傷的だ。だけど、ハードボイルドといはずにゐられない境遇と決意がある。泥沼の中から抜け出せなくても、筋は通したいといふ気持ちだ。
 まづ目次を開いたとき飛び込んできた各章のタイトルが気に入つた。
 これでこの作品はハードボイルドだと確信した。果たして原書がどうなのかは判らないが、羅列する。
(羅列開始)
プロローグ ピストル通り二十年後
1 たとえ負けるためであっても、闘う術を知っていること
2 たとえ埒があかなくとも、賭けることにはまだ望みがある
3 生き残りの誇りは、ただ生き延びること
4 このどうしようもない不快感はコニャックをあおったせいじゃない
5 不幸のなかで、あらためて自分が亡命者であることに気づく
6 日々の夜明けはこの世のかりそめの美しさ
7 自分の抱えている辛い思いは口に出して言ったほうがいい
8 眠らないことは問題解決にはならない
9 治安の悪さが女の色気を奪ってしまう
10他人の視線は殺しの武器
11物事はなるべくしてなる
12限りなく小さなこの世の汚穢に接して
13どうしてもやり過ごせないこと
14天国で死ぬより、地獄で生きる方がまし
15唯一のシナリオは世界への憎しみ
エピローグ 代わり映えのしない新しい日
(羅列終はり)

 いきなり「1」に唸つた。
 「7」のどこが、ハードボイルドだ?と思ふかも知れないが、感じてしまつたものは仕方が無い。

 さてさて、まあ、とにかく気に入つた小説だが、終はり具合が、いささかしつくりとは来なかつた。これは3部作と呼ばれる一作目だからなんだらうか?
 かうなれば、といふか、是非残りも読みたい。